浜田太 エッセイ集

その8 金作原原生林

名瀬市街地から車でおよそ40分程走ると奄美の最も特徴的な原生林の森、金作原がある。
今では観光スポットになって多くの人々が訪れている。
私が、この森と初めて出会ったのは今から16年前になる。
アマミノクロウサギと初めて出会った場所だ。

以来、数え切れないぐらい昼夜出かけている。
その頃は林道も整備されてなく殆ど人と会うことなどなかった。
自然の音しか聞こえず、一人この場所にいるだけで様々な顔を私に見せてくれたのだった。

中でもここのヒカゲヘゴにはいつも圧倒される。
この木の前に立つと全身鳥肌が立った。
この感動を撮りたいとシャッターを切るのだがその感動がなかなか写らない。

ある雨の日、濃霧が山並を包んでいる日「こんな日に金作原はどんな顔を見せるのだろうか」そんな思いで車を走らせた。
なんと、ヒカゲヘゴが霧に包まれまるで恐竜時代にタイムスリップしたかのような錯覚におちいった。

今にも、霧の中から恐竜がヌーット出てきそうで恐怖心が私を襲いその場を早く逃げたいと思ったが、夢中でカメラのシャッターを切った。
想像もつかなかった顔を見せてくれたのである。

出来た写真もまさにあの感動が伝わり幻想的な写真となった。
それからは、雨の日や霧に包まれた日を選んで出かけるようになった。

91年末、このヒカゲヘゴの中にモデルを入れた観光ポスターを発表した。
朝霧に包まれたヒカゲヘゴの中で妖精がおいしい空気を吸っているというコンセプトだった。
発表されるやポスターがあちらこちらで盗まれ話題になった。

以来奄美は海だけでなく森もすごいと、金作原原生林が一躍観光名所になったのである。
この時のモデルは沖縄出身でイメージにピッタリだった。

この時程1枚の写真の力強さを感じた事はなかった。
このポスターによって私は写真家として認められたのである。

琉球新報社 落穂 2002.掲載